1  |  2  |  3  |  4  |  5  |  6  |  7  |  8  | 全て表示

2016年04月14日掲載 【トビイロウンカに強いイネが持つ抵抗性遺伝子の正体】

イネの大害虫トビイロウンカ

イネの大害虫であるトビイロウンカは、針状の口を突き刺して師管液を多量に吸汁することによりイネを枯死させ、深刻な被害をもたらします。ところが、南インドやスリランカのイネの中には、トビイロウンカに強い品種があることが知られています。では、トビイロウンカに強いイネ品種はどのような抵抗性遺伝子を持っているのでしょうか?

著者: 田村泰盛 (農業・食品産業技術総合研究機構 昆虫植物相互作用ユニット)

本文を読む "トビイロウンカに強いイネが持つ抵抗性遺伝子の正体" »

2016年04月07日掲載 【コメツキムシのDNAバーコーディング/種は遺伝子だけで判定できるのか?】

ツマグロハナコメツキ

DNAバーコーディングとは、遺伝子を使って種同定をするための世界的プロジェクトです。わたしたちは、日本のコメツキムシ科についてバーコードデータベースを作りました。コメツキムシの種同定はとても難しいので、バーコードが今後役立つだろうと思ったからです。ところがそのデータを分析してみると、思いがけず「種は遺伝子だけで判別できるのか」という大きな問題に関わりそうな結果が得られてきました。

著者: 大場裕一 (中部大学応用生物学部環境生物科学科)

本文を読む "コメツキムシのDNAバーコーディング/種は遺伝子だけで判定できるのか?" »

2015年09月14日掲載 【カイコで遺伝子を強力に働かせることに成功】

光るカイコの幼虫

私たち日本人にとって馴染みの深い昆虫であるカイコは、「遺伝子組換え技術」を用いることによって様々な遺伝子の機能を調べたり、また私たちの役に立つタンパク質を生産したりすることができます。今回私たちは、カイコの全身で遺伝子を強く働かせることに成功し、組換えカイコをさらに利用しやすくするための技術を開発しました (参考文献1、2)。

著者: 坪田拓也 (農業生物資源研究所 遺伝子組換え研究センター 遺伝子組換えカイコ研究開発ユニット)
URI: http://www.nias.affrc.go.jp/tgsilkworm/index.html

本文を読む "カイコで遺伝子を強力に働かせることに成功" »

2015年06月09日掲載 【青い光が虫を殺す】

ピーク波長467nmの青色LEDパネル

害虫の防除方法には様々なものがあります。薬剤を使って虫を殺してしまう方法が一番よく用いられていますが、光に対する虫の反応を利用して害虫の行動を制御する方法もよく知られています。私たちの研究室ではそれらとは全く違う、「光を当てるだけで害虫を殺す」という新しい防除の可能性を見つけ出しました(Hori et al. 2014)。

著者: 渋谷和樹・堀 雅敏 (東北大学大学院農学研究科)
URI: http://www.agri.tohoku.ac.jp/insect/index-j.html

本文を読む "青い光が虫を殺す" »

2015年04月10日掲載 【クワガタムシにおける性的二型の発生制御メカニズム】

メタリフェルホソアカクワガタ

クワガタムシはオスとメスで非常に異なる姿をしていることで知られています。オスは俗に「ハサミ」と呼ばれる一対の発達した大顎を持っていますが、メスではこの大顎発達は見られません。同じ種であるにも関わらず、このような全く異なった姿へと成長する背景にはどんな発生メカニズムがあるのでしょうか?

著者: 後藤寛貴・三浦 徹 (北海道大学大学院 地球環境科学研究院 環境生物科学部門 生態遺伝学分野)

本文を読む "クワガタムシにおける性的二型の発生制御メカニズム" »

2015年04月08日掲載 【捕食者が昆虫と花の多様性を進化させる?】

オキナワアズチグモに捕食されるツチバチの一種

昆虫と花には「昆虫は花粉を運び、代わりに蜜をもらう」という協力関係があります。ところが多くの場合、花で昆虫を待ち伏せる捕食者が、彼らの協力関係の間に入り込んでいます。捕食者は昆虫と花にとって、ただの「邪魔者」なのでしょうか?コンピューター・シミュレーションによる研究から、捕食者の存在が、昆虫と花の多様性を進化させるカギとなっている可能性が示唆されました。

著者: 香川幸太郎 (東邦大学理学研究科)

本文を読む "捕食者が昆虫と花の多様性を進化させる?" »

2015年04月07日掲載 【キイロショウジョウバエの交尾行動と概日リズム】

キイロショウジョウバエの雌雄

ほぼすべての生物はその体内に約24時間を測る概日時計をもっています。概日時計は一日の周期で変化する地球環境に適応するために,生物が進化の過程で獲得した能力です。例えば24時間周期の行動リズム(昼行性や夜行性)は概日時計でコントロールされています。概日時計は環境にリズム(昼夜のサイクル)がなくても、24時間を測ることができますが,環境にリズムがあるとそれに同調することができます。私たちは,モデル生物であるキイロショウジョウバエを用いて,オスメスの交尾行動と概日時計の関係について研究しました(Hanafusa et al. 2013)。

著者: 吉井大志 (岡山大学・大学院自然科学研究科)

本文を読む "キイロショウジョウバエの交尾行動と概日リズム" »

2014年02月10日掲載 【花粉を運ぶ昆虫が花の匂いの雌雄差をもたらす】

キールンカンコノキの雄花で花粉を集めるハナホソガ

クジャクの優美な飾り羽根、カブトムシの力強いツノ、シオマネキの大きなハサミ、これらはどれも雌にはなく、雄だけに見られる形質です。このように、同じ種でも雌と雄で明らかに形態が異なることを"性的二型"といいます。性的二型は、古くから様々な動物で知られ、その役割や進化的背景について大いに議論されてきました。ところが、このような性的二型は主に動物のみで知られ、被子植物の花の形や色、匂いなどが雌雄で大きく異なることは稀と考えられてきました。私たちはコミカンソウ科の一部の植物で、花の形質の1つである"匂い"に性的二型がみられることを発見し、それが花粉を運ぶ昆虫との特異な共生関係によってもたらされたことを示しました。

著者: 岡本朋子 (森林総合研究所)

本文を読む "花粉を運ぶ昆虫が花の匂いの雌雄差をもたらす" »

2014年02月10日掲載 【オルガネラ様共生細菌で身を守るミカンキジラミ】

ミカンキジラミ成虫

昆虫と微生物の共生のかたちのひとつに、微生物が宿主を外敵から守る「防衛共生」がありますが、この関係は進化的に不安定と考えられてきました。ところがさきごろ、私たちは、カンキツ類の大害虫であるミカンキジラミが、毒を作る共生細菌を自らの一部として安定な関係を築き、これを武器に天敵から身を守っているらしいことを明らかにしました。

著者: 中鉢 淳 (豊橋技術科学大学・エレクトロニクス先端融合研究所)

本文を読む "オルガネラ様共生細菌で身を守るミカンキジラミ" »

2014年01月30日掲載 【ゴキブリに栄養を供給する細菌の行く末は?】

オオゴキブリ成虫

非常にタフな害虫というイメージがあるゴキブリですが、実は一人では生きていくことができず、細胞内に共生しているブラタバクテリウム(Blattabacterium cuenoti)という細菌からアミノ酸やビタミンなどの栄養をもらって生きています。この細菌は、今から約一億八千万年前にゴキブリの祖先に感染し、母から子へと絶やすことなく受け継がれてきました。しかし、一部のゴキブリのグループはこの細菌を失っているのです。長大な年月を片時も離れることなくゴキブリと歩みをともにしてきたこの細菌にいったい何が起こったのでしょうか?

著者: 金城幸宏・徳田 岳 (琉球大学熱帯生物圏研究センター)

本文を読む "ゴキブリに栄養を供給する細菌の行く末は?" »

2014年01月20日掲載 【コオロギから見た昆虫概日時計の多様性】

フタホシコオロギ成虫

体内時計(概日時計)はバクテリアからヒトまで進化的に保存されており、地球で生命活動を営む上で基盤となる重要な仕組みです。この時計を用いて、生物は環境の変化を予知することができます。多様な環境に適応して生息する昆虫では、時計も多様化が進んでいると考えられています。私たちは、昆虫体内時計の多様化の理解を目指して、コオロギの体内時計の仕組みの解析を進めています。

著者: 瓜生央大 (岡山大学大学院自然科学研究科)

本文を読む "コオロギから見た昆虫概日時計の多様性" »

2014年01月17日掲載 【イモムシ体表にスポット紋様が生じるメカニズムの解明】

キアゲハ幼虫

動物の体表には目玉のような模様がよく見られます。このような紋様の多くは捕食者に対するシグナルといわれていますが、その形成メカニズムの詳細は知られていませんでした。今回私たちは、カイコの突然変異体やキアゲハなどの幼虫を用いて、幼虫体表のスポット紋様が生じるメカニズムを解明しました1,2)

著者: 藤原晴彦 (東京大学・大学院新領域創成科学研究科・先端生命科学専攻)

本文を読む "イモムシ体表にスポット紋様が生じるメカニズムの解明" »

2014年01月01日掲載 【共生界の遺伝的フランケンシュタインモンスター】

ベータ細菌(緑)の中にガンマ共生細菌(オレンジ)が入り込んだ入れ子状共生系

農業害虫として悪名の高いミカンコナカイガラムシは、別種の細菌を内部に宿した細菌がさらに昆虫の細胞の中に入り込むマトリョーシカ人形のような入れ子状共生系を持っています。この共生系の進化には、これら3種の以外の生物も深く関わって来たことがゲノム解析により明らかになりました。

著者: 古賀隆一 (産業技術総合研究所)

本文を読む "共生界の遺伝的フランケンシュタインモンスター" »

2013年12月23日掲載 【「生物を生きたまま電子顕微鏡で高解像度観察する」~昆虫が分泌する物質を規範とした"防護服"ナノスーツの開発~】

ナノスーツをまとい、生きたままFE-SEMで撮影されたボウフラ

生物表面の微細構造の観察/解析には、走査型電子顕微鏡が有効な機器として用いられて来ました。しかし、高倍率・高分解能で表面微細構造を観察できる電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)では、試料を高真空環境(10-5~10-7Pa)に曝さなかえればならないので、生物が含む水分やガスなどが奪われて微細構造がたやすく変形してしまいます。そのため生物試料に様々な化学的前処理を施した後に予備乾燥したり、あるいは真空度を10-2Pa程度に下げた低真空SEMを用いるなど機器側の開発も行われたりしてきましたが、前者は微細構造が崩れ、後者は解像度が下がってしまうなどの問題が生じます。生物という濡れた試料を高倍率・高分解能観察することは困難で、ましてや生きたままの生物の観察は不可能だと考えられてきました。著者らは、その固定概念を払拭し生物がもつ真空耐性を増強する技術を検討し、虫(ショウジョウバエなど)の幼虫が体表にもつ粘性物質に、電子線またはプラズマ照射することで得られるナノ薄膜が、超高真空下でも体内の水分やガスの放出を抑制する表面保護効果を生みだすことを見いだし、生きたままのFE-SEM観察に適応することに成功しました(Takaku et al, 2013)。

著者: 高久康春 (浜松医科大学)

本文を読む "「生物を生きたまま電子顕微鏡で高解像度観察する」~昆虫が分泌する物質を規範とした"防護服"ナノスーツの開発~" »

2013年12月19日掲載 【GFPよりも使いやすい遺伝子組換えマーカーを目指して】

赤卵変異体のカイコ成虫

ショウジョウバエでは遺伝子組換え体を色や形などの見た目で判別できますが、他の昆虫では組換え体の判別はGFPなどの蛍光マーカーで行われています。しかし、蛍光マーカーを用いたスクリーニングは、蛍光顕微鏡が高価であることに加えて、実際やってみると大変骨の折れる作業であることをご存知の方もいるでしょう。

ショウジョウバエ以外の昆虫で遺伝子組換え実験をしている人は、ハエは肉眼で簡単にスクリーニングできるのでうらやましいと一度は思ったことがあるのではないでしょうか。

今回私たちは、様々な昆虫に適用可能で、組換え体を見た目(色)で判別できるマーカーを作り出すことに成功しました。(Osanai-Futahashi et al. 2012)

著者: 二橋美瑞子 (農業生物資源研究所)

本文を読む "GFPよりも使いやすい遺伝子組換えマーカーを目指して" »

2013年06月10日掲載 【冬の寒さが冬尺蛾の種分化を引き起こす】

クロテンフユシャクの交尾。上がメスで下がオス

新しい生物種が誕生するプロセスを種分化と言います。種分化の過程で重要なことは、それまで互いに繁殖できていたもの同士が「空間的」に出会わなくなることだとされてきました。しかし、理論的には「時間的」に出会わなくなることによっても種分化は生じるはずです。私たちはクロテンフユシャクという蛾において冬の寒さによって繁殖時期が分離し、時間的な種分化が起こっていることを明らかにしました。

著者: 山本哲史 (京都大学)

本文を読む "冬の寒さが冬尺蛾の種分化を引き起こす" »

2013年06月10日掲載 【サイカチマメゾウムシ幼虫がもつ新規抗酸化脂質】

サイカチマメゾウムシ成虫

活性酸素種(ROS)の過剰発生によって、生体を構成するタンパク、核酸および脂質などが多大な損傷を受ける恐れがあります。酸素呼吸を行う生物は、常にこのような酸化ストレスにさらされる危険性を有していることから、生体防御のためにSODやチオレドキシンなどの抗酸化性酵素、あるいはビタミンCおよびE、カロテノイド類、ポリフェノール類などの有機物質を利用していることが知られています。最近、マメ科の種子中で成長するマメゾウムシ幼虫がこれまで知られていない抗酸化脂質を作り出していることがわかりました。この新規抗酸化脂質の化学構造を特定した研究について紹介します。

著者: 太田伸二 (広島大学大学院生物圏科学研究科)

本文を読む "サイカチマメゾウムシ幼虫がもつ新規抗酸化脂質" »

2013年03月02日掲載 【ショウジョウバエは空腹状態で記憶力があがることを発見】

*

さまざまな記憶障害を改善することは、QOLの向上に重要です。記憶研究が進んだ結果、記憶メカニズムについて解明されつつありますが、記憶障害を効果的に改善する方法はこれまで確立されていません。今回私たちは、ハエを空腹状態にすると長期的な記憶が促進されること、さらにその分子メカニズムを明らかにしました。

(絵: 久保田珠美)

著者: 平野恭敬 (東京都医学総合研究所・科学技術振興機構さきがけ)・齊藤 実 (東京都医学総合研究所)

本文を読む "ショウジョウバエは空腹状態で記憶力があがることを発見" »

2013年03月01日掲載 【子供とおばあちゃんが戦って巣を守るアブラムシ】

防御のための分泌液を出す無翅成虫

昆虫の社会においては、生存に必要な仕事を仲間同士で分担して行っています。今回私たちは、産まれたばかりの幼虫と年老いた成虫が防衛し、その他の個体は繁殖に専念するという役割分担を発見しました。「子供とお年寄りが防衛する」というと変に聞こえますが、実際は集団を維持するための合理的な戦略なのです。

著者: 植松圭吾 (ケンブリッジ大学)・柴尾晴信 (東京大学大学院総合文化研究科)

本文を読む "子供とおばあちゃんが戦って巣を守るアブラムシ" »

2013年02月27日掲載 【"おとり"受容体が体の成長を調節する】

モデル生物のショウジョウバエ

我々ヒトの体の大きさが個人個人で異なるように、昆虫をはじめとする様々な生き物の体の大きさは生育環境や遺伝的背景によって大きく変わります。しかし、生物の体の成長がどのように調節されて最終的な体の大きさが決定されるのかについては、いまだ不明な点が数多く残されています。

本コラムでは、最近筆者らがショウジョウバエを用いて明らかにした新規の成長制御因子"SDR"について紹介いたします。

著者: 岡本直樹・西村隆史 (理研CDB・成長シグナル研究チーム)

本文を読む ""おとり"受容体が体の成長を調節する" »

2013年02月01日掲載 【ドーパミンが覚醒を誘導する回路を同定 ~睡眠と記憶の回路の分離~】

孵化が近い卵塊を保護するコブハサミムシ

睡眠と記憶には、密接な関係があります。覚醒時に学習したことは、その後の睡眠で記憶されるので、学習後に眠らないと、記憶の定着が悪くなります。ドーパミンという神経伝達物質は、睡眠と記憶の両方の制御に使われます。ショウジョウバエでは、特定のドーパミン神経を刺激することで、学習・記憶が成立することがわかっていました。今回、私たちは、覚醒を誘導するドーパミン神経回路を特定した結果、学習・記憶の回路と別であることがわかりました。

著者: 粂 和彦・上野太郎 (熊本大学発生医学研究所)

本文を読む "ドーパミンが覚醒を誘導する回路を同定 ~睡眠と記憶の回路の分離~" »

2013年02月01日掲載 【ゴールで生活するアブラムシの快適な住まいづくり】

孵化が近い卵塊を保護するコブハサミムシ

「自分の住まいを快適で機能性のあるものに」。こう考えるのは、人間も昆虫も同じです。ある種の昆虫類は、ゴール(または虫こぶ)とよばれる、植物組織を異常に増殖または変形させた、巧妙な形をした巣をつくります。ゴールは、そのゴール形成者にとっての巣であるばかりではなく、豊富な栄養供給源でもあります。今回の研究では、ゴールのそれらの役割に加えて、昆虫が出す排泄物を除去する仕組み、つまりトイレ機能を備えたゴールが存在することを、アブラムシにおいて発見しました。

著者: 沓掛磨也子 (産業技術総合研究所)

本文を読む "ゴールで生活するアブラムシの快適な住まいづくり" »

2012年12月30日掲載 【昆虫の変身を抑えるメカニズムの解明 ~優しい殺虫剤の開発に向けて~】

蛹になるために繭を作るカイコ

殺虫剤による害虫防除は、安定的な農作物の生産を可能にした一方、その使用を誤ると、環境汚染や人体への悪影響を引き起こす危険性があります。また、ミツバチのような受粉昆虫や害虫の天敵であるテントウムシなどの益虫も殺してしまう場合もあります。そのため、環境や人体にやさしく、受粉昆虫や天敵などの益虫をなるべく殺さない、害虫にだけ選択的に作用する殺虫剤の開発が求められています。私達は、このような条件を満たす殺虫剤を合理的に開発するために、脱皮・変態に関わる昆虫固有のホルモンである幼若ホルモンに着目しています。未だ明らかにされていない幼若ホルモンの分子機構を解明し、新たな殺虫剤の開発に貢献したいと考えています。

著者: 粥川琢巳・篠田徹郎 (農業生物資源研究所・昆虫成長制御研究ユニット)

本文を読む "昆虫の変身を抑えるメカニズムの解明 ~優しい殺虫剤の開発に向けて~" »

2012年12月28日掲載 【ショウジョウバエは栄養のことを考えて食べる】

ヒラタシデムシ成虫

生物は、エネルギー源としての炭水化物や脂質、体を構成するタンパク質など、様々な栄養物質を外界から摂取して生きていかなければなりません。しかも、暴飲暴食が体に良くないように、おいしいものを好きなだけ食べていてはだめで、各種栄養素を正しいバランスで摂食することが健康的な生活を送るには重要です。人間は栄養学の知識を学んで食事バランスを考えます。つまり、本能的に適切な食生活を送ることができないのです。だからこそ、「○○が健康に良い」という誤った情報にも踊らされるのでしょう。では、野生動物はどうでしょうか。私たちは、ショウジョウバエが不足した栄養素を補うように食の好みを変化させる能力を持っていることを明らかにしました(Toshima and Tanimura, 2012)。

著者: 利嶋奈緒子・谷村禎一 (九州大学大学院・理学研究院)

本文を読む "ショウジョウバエは栄養のことを考えて食べる" »

2012年10月16日掲載 【カイコの変異体から分かったショウジョウバエの眼が黒くない理由】

赤卵変異体のカイコ成虫

昆虫の中でも、チョウやトンボなど、カラフルな種は一般の人にも人気がありますが、昆虫に色がつく仕組みについてはまだまだ不明な点が多く残されています。幅広い昆虫に存在する主要な色素の1つとして、アカトンボやドクチョウなどの赤い色で有名なオモクローム系色素が挙げられます。オモクローム系色素は、ショウジョウバエの赤い複眼など、ほとんどの昆虫の眼の色としても使われています。オモクローム系色素の合成経路については、ショウジョウバエの眼の色の変異体の研究から前半の部分についてのみ解明されていました。今回、筆者らは、カイコの眼と卵の色の変異体「赤卵」の原因遺伝子を探索し、その正体が、オモクローム系色素の合成の後半に働く新規なトランスポーター遺伝子であることを明らかにしました。

著者: 二橋美瑞子 (農業生物資源研究所)

本文を読む "カイコの変異体から分かったショウジョウバエの眼が黒くない理由" »

2012年10月09日掲載 【「赤とんぼ」が赤くなる仕組み】

ナツアカネ成熟♂

童謡「赤とんぼ」は、日本人なら誰でも口ずさめる歌の一つでしょう。空を群れ飛ぶ「赤とんぼ」は、秋の訪れをつげる風物詩としても日本人に親しまれてきました。「赤とんぼ」というと、一般的には秋によく見られるアキアカネなど、アカネ属に含まれるトンボを指すことが多いですが、夏によく見られる「ショウジョウトンボ」など赤いトンボ全般を含む場合もあります。赤くなるトンボの共通点としては、成虫が成熟するに伴って体色が黄色から赤色へと変化することが挙げられます(図1, 尾園・川島・二橋, 2012)。このような劇的な色の変化は、通常はオスにだけ見られ、メスは生涯黄色っぽい色をしていることが多いです。オスとメスの色の違いは、繁殖行動や縄張り活動の際に重要であると考えられています(二橋, 2010)。

著者: 二橋 亮 (産業技術総合研究所)

本文を読む "「赤とんぼ」が赤くなる仕組み" »

2012年10月07日掲載 【たった1つの酵素のわずかな違いが、ショウジョウバエの生活史を変化させた】

パチアショウジョウバエ

地球上の生物の中には、特殊な環境に適応して独特の進化を遂げたものが多数存在します。しかし、それぞれの生物がこうした特殊な環境に適応するにあたってどのような遺伝子レベルの変化が必要であったのか、不明な点が多く残されています。本コラムでは、最近筆者たちが明らかにした、ショウジョウバエの食性の進化に関わる遺伝子の変化について紹介いたします。

著者: 丹羽隆介 (筑波大学 生命環境系/JSTさきがけ研究者)

本文を読む "たった1つの酵素のわずかな違いが、ショウジョウバエの生活史を変化させた" »

2012年08月09日掲載 【森と川をつなぐ細い糸】

ハリガネムシに寄生されていたカマドウマ(檀上幸子撮影)

森が育む陸生昆虫類は、渓流に棲むサケ科魚類の重要な餌資源となり、ひいては河川生態系全体に大きな影響を及ぼします。これまで、多くの研究が陸生昆虫類は川に「落下する」という暗黙の仮定をしてきました。様々な形態や行動様式をもつ陸生昆虫類は本当に、単純に川に落下しているのでしょうか? 私たちの研究から、寄生虫による宿主の行動操作が、森と川の生態系をつなぐ重要な役割を果たしていることが明らかになってきました。

著者: 佐藤拓哉 (京都大学白眉センター)

本文を読む "森と川をつなぐ細い糸" »

2012年06月27日掲載 【腸内細菌で殺虫剤に強くなる!?】

ホソヘリカメムシ成虫

これまでに500種類以上の害虫において殺虫剤抵抗性が報告されており、世界的にも大きな問題となっています。このような殺虫剤抵抗性は、従来「昆虫自身の遺伝子によって決まるもの」とごく当たり前のように考えられてきました。しかし、どうやらそうとも限らないようです。筆者らの最近の研究から、昆虫の体の中に棲む腸内共生細菌が殺虫剤抵抗性に大きく関わることが明らかになってきました。

著者: 菊池義智 (産総研北海道センター)

本文を読む "腸内細菌で殺虫剤に強くなる!?" »

2012年06月26日掲載 【昆虫の行動をあやつるウイルス: バキュロウイルスは宿主から獲得した遺伝子を改変して行動操作に利用していた!】

バキュロウイルスの一種

昆虫病理学の分野で有名な病原体の一つに、バキュロウイルスというウイルスがいます(図1)。このウイルスは、感染後に宿主幼虫の行動をあやつって高い場所へと移動させて殺し、死体をドロドロに溶かすという、SFさながらの恐ろしいウイルスなのです。最近の研究により、バキュロウイルスが宿主の行動を操作するメカニズムについて、非常に興味深い事実が明らかになってきましたので、ご紹介します。

著者: 國生龍平・勝間 進 (東京大学・大学院農学生命科学研究科)

本文を読む "昆虫の行動をあやつるウイルス: バキュロウイルスは宿主から獲得した遺伝子を改変して行動操作に利用していた!" »

2009年01月30日掲載 【アカリナリウムは用心棒を運ぶポケットだった!】

アカリナリウムの中のダニ

アトボシキタドロバチ(以下アトボシ)をはじめ、カリバチやハナバチの中にはアカリナリウムと呼ばれるダニポケット(体表面の窪み)を持つものがいます。なぜハチがこんなポケットを持つようになったかは、長らく生物界の謎でした。

アトボシのアカリナリウムを利用するダニが、ハチの巣の中でどんな生活をしているのか調べてみたところ、ダニはハチの幼虫の体液を吸う寄生者でした。どうしてアトボシは子供の血を吸う寄生生物を大事に(?)ポケットに入れて運ぶのか??

著者: 岡部貴美子・牧野俊一 (森林総研)

本文を読む "アカリナリウムは用心棒を運ぶポケットだった!" »

2008年09月12日掲載 【トレハロース: 干からびたネムリユスリカ幼虫が蘇生する鍵分子】

『宇宙ユスリカ』の幼虫

乾燥に強い多くの昆虫はクチクラを厚くするなど身体から水分を失うことを回避していますが、ネムリユスリカは昆虫で唯一全く異なった戦略で乾燥ストレスに対応しています。すなわち身体が完全に干からびても死なない機構を獲得しているのです。

著者: 奥田 隆 (農業生物資源研究所・乾燥耐性研究ユニット)
URI: http://www.nias.affrc.go.jp/anhydrobiosis/Sleeping Chironimid/

本文を読む "トレハロース: 干からびたネムリユスリカ幼虫が蘇生する鍵分子" »

2008年04月15日掲載 【アゲハ幼虫の紋様の切り替えは幼若ホルモンによって制御されていた】

JH投与により斑紋が変化したアゲハ「終齢」幼虫

アゲハPapilio xuthusの幼虫を飼育された方も多いと思いますが、終齢になるときの劇的な紋様の変化には、目を見張るものがあります。若齢幼虫は鳥のフンに擬態し、終齢幼虫は周囲の食草に紛れ込む効果があると考えられています(図1)。このような現象について、小学生の頃から不思議に思われた方もいるのではないかと思いますが、その分子レベルでの実体は最近まで全く不明でした。その原因の一つには、紋様に関わる遺伝子がそもそも不明であったことが挙げられると思います。

著者: 二橋 亮 (農業生物資源研究所)

本文を読む "アゲハ幼虫の紋様の切り替えは幼若ホルモンによって制御されていた" »

2007年11月01日掲載 【チョウでみられる共生細菌が原因の性転換現象 〜昆虫の性決定メカニズムに迫れるか?〜】

吸蜜するキチョウ

キチョウ(Eurema hecabe)は、シロチョウ科に属しており、その名の通り翅が黄色い小型のチョウである。一見、同じシロチョウ科に属するモンキチョウと似ているが、筆者の多分に主観的な印象を述べさせていただくと、キチョウのほうが格段に上品で可憐である。水辺の近い少し開けた山地や住宅地などで、キチョウがひらひらと舞うように羽ばたいているのを、春から秋にかけて目にしたことがある人は多いと思う。実は、このキチョウは我々の目を和ませてくれるだけでなく、Wolbachiaという共生細菌に感染しており、昆虫の性決定や昆虫-微生物間相互作用という、興味深く、しかも重要な問題について取り組む材料を提供してくれているのだ。

著者: 成田聡子 (千葉大学園芸学部)

本文を読む "チョウでみられる共生細菌が原因の性転換現象 〜昆虫の性決定メカニズムに迫れるか?〜" »

2007年08月02日掲載 【利用できるエサ植物は腸内共生細菌で決まる】

卵塊を産むマルカメムシ

植食性昆虫がエサとして効率良く利用できる植物の範囲は限られており、その範囲は昆虫の種によって異なります。たとえば、モンシロチョウの幼虫は一部のアブラナ科植物だけ、モンキチョウの幼虫は一部のマメ科植物だけ、といった具合です。これまでは各昆虫の植物利用能力はそれぞれの昆虫自身がもつ遺伝子型によって決まっていると考えられていました。しかし最近、昆虫の体内に共生する微生物の遺伝子型も重要であることがわかってきました。ここではマルカメムシ類と腸内共生細菌の研究例を紹介します。

著者: 細川貴弘・深津武馬 (産業総合研究所・生物機能工学)

本文を読む "利用できるエサ植物は腸内共生細菌で決まる" »

2007年05月30日掲載 【エイリアンもびっくり、不思議なセンチュウがスズメバチから見つかる】

キイロスズメバチ

エイリアンという映画をご存じだろうか。シガニーウィーバー主演で話題となったSF映画であり、あたかもシロアリを連想させるような、不気味なエイリアンが人類を襲うというものである。特にマザーと呼ばれるエイリアンの母親はすさまじく、巨大に肥大した腹部から次々にエイリアンの卵を産んでいる姿は、おぞましいものであった。女王の腹部が巨大化するのはシロアリでは有名であるが、最近の研究により、さらにすさまじい例がスズメバチに寄生するセンチュウでみつかった。

著者: 福山研二 (森林総合研究所)

本文を読む "エイリアンもびっくり、不思議なセンチュウがスズメバチから見つかる" »

応用動物学/昆虫学最新トピック

プロの研究者でもまだ知らないような、出来たてホヤホヤの最新研究成果を分かりやすくお伝えします。

日本応用動物昆虫学会(応動昆)

「むしむしコラム・おーどーこん」は、日本応用動物昆虫学会電子広報委員会が管理・運営しています。