2015年06月09日掲載 【青い光が虫を殺す】

害虫の防除方法には様々なものがあります。薬剤を使って虫を殺してしまう方法が一番よく用いられていますが、光に対する虫の反応を利用して害虫の行動を制御する方法もよく知られています。私たちの研究室ではそれらとは全く違う、「光を当てるだけで害虫を殺す」という新しい防除の可能性を見つけ出しました(Hori et al. 2014)。

青色光による殺虫効果の発見

図1: ピーク波長467nmの青色LEDパネル
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害虫の被害を減らす方法の一つに、光を使ったものがよく知られています。スーパーなどの建物の壁に、青い照明が取り付けられているのを見たことがあるでしょうか? あれは紫外線や青色の光に虫が引き寄せられる性質を利用して、寄ってきた害虫を高電圧で殺すものです。また、果樹園などでは防蛾灯と呼ばれる照明が普及しています。果実に被害を与える夜行性の蛾(果汁を吸うので吸蛾類などと称されます)に緑~黄色の光を当てると、蛾は「今が昼間だ」と錯覚します。夜行性の蛾は昼間には活動しないので、果実への被害が抑えられるというわけです。このように光による防除法は広く普及していますが、いずれも虫の行動を制御するものであり、光で直接的に害虫の成育を妨げたり、殺したりするものではありません。

図2

図2: 様々な波長光を照射したときの、a) キイロショウジョウバエ、b) チカイエカ、c) ヒラタコクヌストモドキ蛹に対する殺虫率。
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しかし、ある特定の色の光、すなわち青色光(400~500nmの紫~青に見える波長の光)を当てることにより、昆虫を殺虫できることが最近明らかになりました。衛生害虫の一種であるキイロショウジョウバエの蛹に467nm(ヒトの目には青く見える波長、図1)の光を当てると、なんと90%以上の蛹が成虫になることができずに死んでしまったのです(図2a)。この時の光の強さは、直射日光に含まれる青色成分の強さの1/3程度でした。さらに、紫外線である378nmよりも青色の467nmの方が明らかに高い殺虫効果を示しました。紫外線が生き物の体に害を与えるということはよく知られていますが、紫外線よりも波長が長くて安全とされている青色光にこれほど強い殺虫効果があるということを見出したのは世界で初めてです。少なくともキイロショウジョウバエに関しては、ある種の紫外線よりも青色光の方が有害であるという、これまでの常識を覆す結果が明らかになりました。

他の害虫に対する効果も調査してみたところ、チカイエカ(蚊の一種)では417nm(青紫色)の照射で、ヒラタコクヌストモドキ(食品工場で問題になるコウチュウの一種)では404~467nmの範囲(紫~青色)で強い殺虫効果が得られました(図2b、2c)。すなわち青色光の照射は、ショウジョウバエに限らずあらゆる種類の昆虫を殺すことができるといえます。また、効果のある波長が虫の種類によって異なることも非常に興味深いところです。

予想される殺虫メカニズムと今後の展望

図3

図3: 予想される殺虫メカニズムの模式図。青い光の照射によって活性酸素が発生し、組織や細胞がダメージを受ける可能性がある。
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なぜ、青い光を当てただけで死んでしまうのでしょうか? 詳細なメカニズムの解明は今後の課題ですが、私たちは次のような予測を立てています。

青い光は人の目に悪いといわれています。それは青い光の照射によって活性酸素が発生し、網膜細胞にダメージを与えるためだと考えられています。虫の場合もこれと同じく、青い光の照射によって活性酸素が発生し、組織や細胞がダメージを受けて死んでしまうと考えています。虫の種類によって殺虫効果のある波長が異なることから考えると、虫の体内にはそれぞれ特定の波長の光を吸収しやすい物質が含まれているということが予想されます。その物質がある特定波長の青色光を特異的に吸収し、そのエネルギーによって多量の活性酸素が発生し、それによって細胞がダメージを受けて死亡する、というプロセスです(図3)。

この発見により、光を当てるだけという全く新しい害虫防除法の開発が期待されます。例えば食品工場や家庭内など、殺虫剤が使いづらい場所でも、青い光を照射するだけで害虫の発生が抑えられるようになるかもしれません。それら以外にも農業や畜産など、害虫が問題になっている場面は多くあります。照明を用意し、青い光を当てるだけという簡単な方法なので、様々な場所・状況において使用可能である画期的な技術となる可能性があります。

私たちの研究室では今後、殺虫メカニズムの詳細な解明を行うことで、より効果の高い波長や照射方法などを明らかにしていく予定です。

参考文献

著者: 渋谷和樹・堀 雅敏 (東北大学大学院農学研究科)
URI: http://www.agri.tohoku.ac.jp/insect/index-j.html

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