2014年01月20日掲載 【コオロギから見た昆虫概日時計の多様性】

体内時計(概日時計)はバクテリアからヒトまで進化的に保存されており、地球で生命活動を営む上で基盤となる重要な仕組みです。この時計を用いて、生物は環境の変化を予知することができます。多様な環境に適応して生息する昆虫では、時計も多様化が進んでいると考えられています。私たちは、昆虫体内時計の多様化の理解を目指して、コオロギの体内時計の仕組みの解析を進めています。

図1: フタホシコオロギ雄成虫
フタホシコオロギ成虫は明瞭な夜行性の活動リズムを示す。そのリズムを制御するのは視葉という組織に存在する概日時計である。
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概日時計の背後には、約24時間の時を刻む「時計遺伝子」が関与しています。時計遺伝子には複数種あり、それぞれ体内時計の歯車のような役割を担っています。それらの時計遺伝子のいくつかが一日周期で発現することで、体内時計を駆動しているのです。

時計遺伝子cycleClockは、共に別の時計遺伝子の転写を活性化する重要なタンパク質をコードしています。ショウジョウバエでは、cycleは一定レベルで発現しており、Clockが日周発現しますが、他の昆虫にはClockが定常的に発現し、cycleが周期的に発現するものも知られています。後者は哺乳類に類似した特徴です。本研究では、フタホシコオロギ(図1)を用いてcycle 遺伝子のcDNAをクローニングにより取得し、その機能を解析しました。フタホシコオロギでも、cycleが活動リズムを制御するために重要な役割を演じますが、ハエとは異なり日周的に発現しており、逆にClockが定常的に発現することがわかりました(図2)。ところが興味深いことに、cycleの周期的発現をRNA干渉法で阻害した場合、Clockが周期的に発現することが明らかとなりました。従って、祖先型の昆虫時計では本来、cycleClockの両方が振動する機構を持っており、そこからcycleまたはClockの一方が振動するように変化したことが推定されました(図3)。

図2

図2: 概日時計の分子振動機構(上)と時計遺伝子の日周発現パターン(下)
概日時計は複数の時計遺伝子による相互の転写調節によって発振すると考えられている(上図)。ショウジョウバエではClockのみが日周発現するが、コオロギではcycleのみが日周発現する。しかし、cycleをノックダウンしたコオロギでは、Clockが日周発現するようになる。
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図3

図3: cycleClockの周期的発現の系統関係。コオロギではcycleClockの両方が振動する機構を持っているが、ショウジョウバエではClockのみ、マウスなどの哺乳類ではBmal1(cycle)のみが振動する。
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フタホシコオロギの体内時計は、Clockが振動するハエ型の要素とcycleが振動する哺乳類型の要素の両方を合わせ持つことから、コオロギの体内時計の仕組みを解明することにより、昆虫体内時計の多様化の解明につながることが期待されます(Uryu et al, 2013)。

引用文献

著者: 瓜生央大 (岡山大学大学院自然科学研究科)

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