2007年08月02日掲載 【利用できるエサ植物は腸内共生細菌で決まる】

植食性昆虫がエサとして効率良く利用できる植物の範囲は限られており、その範囲は昆虫の種によって異なります。たとえば、モンシロチョウの幼虫は一部のアブラナ科植物だけ、モンキチョウの幼虫は一部のマメ科植物だけ、といった具合です。これまでは各昆虫の植物利用能力はそれぞれの昆虫自身がもつ遺伝子型によって決まっていると考えられていました。しかし最近、昆虫の体内に共生する微生物の遺伝子型も重要であることがわかってきました。ここではマルカメムシ類と腸内共生細菌の研究例を紹介します。

図1: マメ科作物をエサにして飼育したマルカメムシ(上)とタイワンマルカメムシ(下)。いずれも左が本来の腸内共生細菌を保持するメス、右が腸内共生細菌を入れ替えたメス。
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本州、四国、九州に生息するマルカメムシMegacopta punctatissima(図1上)はエサとして主にクズを利用していますが、その他にもフジやハギなどのマメ科植物、さらにはダイズなどのマメ科作物も利用します。一方、南西諸島に生息するタイワンマルカメムシM. cribraria(図1下)はもっぱらタイワンクズを利用し、他のマメ科植物を利用することは稀です。この2種は実験室内で交配させると妊性のある雑種が産まれるほどに近縁なのですが、植物利用能力は異なっている可能性が考えられます。

2種のカメムシを実験室内でマメ科作物(ダイズとエンドウ)をエサにして飼育してみると、植物利用能力の違いがはっきりと見てとれました。幼虫期の成長については両種ともに異常は見られませんでしたが(図1)、マルカメムシの卵はほぼ正常に孵化するのに対して、タイワンマルカメムシの卵の孵化率は低かったのです(図2)。タイワンマルカメムシに比べるとマルカメムシはマメ科作物を効率良く利用できるようです。

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図2: マメ科作物をエサにして飼育したマルカメムシ(上)とタイワンマルカメムシ(下)の卵の孵化率。いずれも左が本来の腸内共生細菌を保持するメスが産んだ卵、右が腸内共生細菌を入れ替えたメスが産んだ卵。グラフ内の数字はそれぞれサンプル数を示す。
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マルカメムシの仲間はすべて種特異的な腸内共生細菌を保持しており、その共生細菌は“カプセル"によってメス親から子へ伝えられます(詳しくは関連記事マルカメムシの共生細菌カプセルを参照)。そこで、孵化幼虫に異種のカプセルを吸わせることでマルカメムシとタイワンマルカメムシの腸内共生細菌を相互に入れ替え、マメ科作物上で飼育してみました。その結果、驚くべきことに孵化率の関係が逆転しました(図2)。つまりどちらのカメムシ種においても、マルカメムシ由来の共生細菌を保持しているとマメ科作物を効率よく利用でき、タイワンマルカメムシ由来の共生細菌を保持しているとうまく利用できないということです。これらの結果は、マルカメムシの仲間が利用できる植物は腸内共生細菌の遺伝子型に大きな影響を受けていることを示しています。

今後は、マルカメムシとタイワンマルカメムシの腸内共生細菌の全ゲノムを解明・比較することによって、宿主カメムシの植物利用能力を規定する具体的な機構を明らかにしていく予定です。

ここでの内容について、さらに詳しく知りたい方は以下の文献をご参照ください。

参考文献・サイト

著者: 細川貴弘・深津武馬(産業総合研究所・生物機能工学)

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