2007年03月27日掲載 【昆虫を扱う職業】

昆虫が大好きなのですが、どういう職業につけば昆虫とつきあっていられますか?
日本応用動物昆虫学会って、どんな人が入っているんでしょう?

【2007/05/08 加筆しました】

昆虫とつきあう職業にも、さまざまな種類があります。

人間の勝手で昆虫を「益虫」と「害虫」、「ただの虫」に分けてしまうと、それぞれの昆虫とつきあう、それぞれの職業があります。

養蚕(ようさん)業は、絹をはき出すカイコガの幼虫を育てる職業ですね。ミツバチからハチミツやローヤルゼリー、プロポリスなどを集める養蜂(ようほう)業もあります。クワガタやカブトムシをブリード(育成)してマニアに売ることを商売にしている人もいます。

害虫の研究者もいます。害虫の、プロの研究者になるのはけっこう大変ですが、各都道府県や独立行政法人の農業試験研究機関、農薬メーカー、農林水産省の植物防疫(ぼうえき)所、大学の農学部...といったところで仕事をしています。最近は大学院を出ていないと就職は難しくなっています。

害虫を殺すことが専門の職業もあります。シロアリ駆除(くじょ)とか、ゴキブリ駆除といった仕事ですが、「昆虫が好き」な場合には、ちょっとつらいかも。

衛生害虫と違って、農業害虫は全部を殺す必要はありません。全部を殺そうとすると農薬をたくさん使うことになってお金もかかるし、手間暇かけて害虫を根絶やしにしても農産物の収量はそれほど上がりませんし、殺すつもりのない昆虫も殺してしまうことになります。害虫をいったん全滅させてしまうと、それを餌にしている天敵も死んでしまったりして、あとから入ってきた害虫がかえって増えてしまうことすらあります(生態的リサージェンスといいます)。ですから、その場合ごとに許すことのできる害虫の数の上限を超えない場合は害虫が存在することを黙認したほうがよいのです。こうした考え方をIPM(integrated pest managementの略、総合的病害虫管理)といい、害虫は「駆除」するものではなく、「防除」したり「管理」すべき相手なのだということになります。こうしたIPMの研究をしている害虫の研究者はかなり多いのですが、IPMの話は奥が深いので、また別なときに...

昆虫を「益虫」や「害虫」などと差別せず、昆虫を生き物としてあつかうのが好きなら、大学の、とくに理学部で研究生活を送る方法もあります。でも、助手、助教授、教授、名誉教授...と偉くなってしまうと、なかなか自分で虫など飼っていられませんが。

もうひとつ、昆虫を昆虫として扱うことのできるすばらしい職業が博物館や昆虫館の職員です。博物館や昆虫館は、標本を作ったり、生きた虫を温室に放して展示するだけのところではありません。職員の多くはハチとかチョウといった専門の分類群や、その地域の動物相といった専門分野をもっていて、その専門では誰もかなわない知識を持っています。害虫の研究者だって、自分が研究している虫がほんとうにその種なのかが分からなければ研究などできません。はたからは地味に見えますが、その昆虫がどうして、ほかならぬその種になり得たかを形態学や遺伝学、分子生物学などを駆使して解き明かしていく学芸員の仕事にはロマンがあります。でも、一人前の学芸員になるには大学院で分類学を修め、専門の文献を網羅し、さらに就職先を探す...必要があり、なかなか大変です。

昆虫を自然がどれだけ残されているのかの目安として調べる、「環境アセスメント」を職業とする方法もあります。この場合は昆虫全般だけでなく、他の生物のことも(クモやゲジゲジや植物なども)よく知っていなければなりません。甲虫だけが好きとか、蝶だけが好きといった人には向いていません。また、野外に出ることが多いので、体力があることや運転免許を持っていることも必要です。期日までに報告書をまとめる、几帳面さも必要です。

そのほか、昆虫雑誌の編集者とか、昆虫マニアのための昆虫標本の採集者・販売者といった職業もないわけではありませんが、ものすごく狭い門のようです。

ふたつめの、「日本応用動物昆虫学会に入っている人の職種」という質問ですが、ほとんどが都道府県や独立行政法人の農業試験研究機関、農薬メーカー、農林水産省の植物防疫所、大学の農学部などの研究者、そして、それらを目ざす大学の学生・大学院生だと思います。ところで、この学会には昆虫学者のほか、応用動物学を専門とする人たちも入っています。昆虫ばかりではなく、カモシカやクマ、サル、ネズミ、カラス、線虫類なども農作物を加害しますし、ダニはヒトばかりではなく家畜の血も吸います。農作物を加害するダニもたくさんいます。そういった有害動物を研究する人たちも、この学会には加入しています。

回答者: 榊原充隆 (東北農研)

Q&A一覧 | 昆虫を扱う職業: ある昆虫担当学芸員の話 » « 昆虫にも血液はあるの? | Q&A一覧 | 害虫相談はどこにしたらいい? »

昆虫学Q&A

昆虫の「なぜ」「なに」に、第一線で活躍する昆虫研究者が易しくお答えします。どしどし質問大歓迎!

日本応用動物昆虫学会(応動昆)

「むしむしコラム・おーどーこん」は、日本応用動物昆虫学会電子広報委員会が管理・運営しています。