2007年03月27日掲載 【モンシロチョウの幼虫に...?】

学校でモンシロチョウの幼虫を飼っていたら、白い綿のようなものがついていて、幼虫は死んでしまいました。これは何ですか?

アオムシコマユバチの繭(まゆ)だと思います。

昨日まで元気だったモンシロチョウの幼虫が元気がなくなったかと思うと、緑色のウジが一斉に体を食い破って出てきて、糸を吐き始めます。そして繭をつくり、何日かすると3mmほどの、小さな黒い蜂が羽化(うか)してきます。

アオムシコマユバチを漢字で書くと、「青虫小繭蜂」となります。青虫とはモンシロチョウの幼虫のこと、小繭蜂とはコマユバチ科の昆虫ということですが、小さい繭をこしらえるハチということでもあります。コマユバチはすべて寄生蜂(きせいばち/きせいほう)です。つまり、親蜂が他種の昆虫の体に産卵すると、卵からかえった幼虫が寄主(きしゅ、昔は宿主といいました)の体内を食いあらして育ち、成虫になる前に寄主の体から脱出して繭を作って、蛹(さなぎ)になるのです。こういう生活を営む種を捕食寄生者(ほしょくきせいしゃ)といいますが、昆虫類には捕食寄生者がかなりの割合でいます。捕食寄生を行う昆虫としてはハチ類のほか、ハエ類やネジレバネ類でも知られています。

寄生蜂は、その特性からいろいろな分類がされています。まず、寄主のどの発育段階に寄生するかで、卵寄生蜂、幼虫寄生蜂、蛹寄生蜂などに分けられますが、このアオムシコマユバチは幼虫寄生蜂になります。

つぎに、1頭の寄主から何頭の寄生蜂が出てくるかで、単寄生蜂か多寄生蜂に分けられますが、アオムシコマユバチは多数が出てくるので、多寄生蜂になります。

また、寄主の体外に寄生するか、体内に寄生するかで、外部寄生蜂と内部寄生蜂に分けられますが、アオムシコマユバチは寄主体内に寄生しているので、内部寄生蜂になります。

そのほか、麻酔したり殺したりして寄主を動けなくしてから寄生するか、寄主を生かしながら寄生するかで、殺傷寄生蜂(idiobiont)と飼い殺し寄生蜂(koinobiont)に分けますが、アオムシコマユバチは飼い殺し寄生蜂になります。飼い殺し寄生蜂は寄主を生かしつつ、寄主が寄生者の自分を殺さないように制御しなければなりません。このことは生物学の基礎的見地からも興味深いですし、農業などへの応用研究としても有望なので、捕食寄生者が寄主をどのように寄主を制御しているかを研究している生理学者が、応動昆にはかなりの数、参加しています。

モンシロチョウは、成虫は可憐な蝶々なのですが、幼虫はアブラナ科作物の害虫です。ですから、モンシロチョウを殺すアオムシコマユバチは、農家にとっては益虫ということになります。寄生蜂は化学農薬とは違って、殺したい害虫以外の昆虫を殺してしまうことはほとんどないので、化学農薬より環境にやさしいしかたで害虫の数を減らせられます。最近は、寄生蜂を使った害虫管理手法も実用化されるようになってきました。アオムシコマユバチもいつかは生物農薬として商品化されるようになるかもしれません。

回答者: 榊原充隆(東北農研)

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