2013年01月22日掲載 【研究室紹介: 京都大学大学院理学研究科・動物生態学研究室】

京都大学大学院 理学研究科 動物生態学研究室は銀閣寺からほど近い吉田キャンパスに位置しています。京都大学では古くから生態学の研究が盛んで、吉田キャンパスではこのほかに農学研究科や人間・環境学研究科に生態学の研究室があります。また滋賀県の瀬田には京都大学の生態学研究センターもあります。動物生態学研究室はこれらの研究室の中でも最も歴史の長い研究室です。動物生態学研究室では現在おもに昆虫と魚類を研究の対象としていますが、ここでは特に昆虫を扱った研究を紹介します。

動物生態学研究室の研究テーマ・材料は一言では言い表せないほど多様です。

図1: マヤサンオサムシのメス(下)と交尾するヤコンオサムシのオス(上)。
マヤサンサムシは山地に、ヤコンオサムシは平地に生息しており、これら2種は野外では共存していない(奥崎穣博士提供)。
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研究室の教員のうち、現在昆虫を材料としているのは曽田貞滋教授です。曽田教授の主な研究は、オサムシにおいて生物多様性が創出・維持される機構の解明です。特に体サイズや交尾器の形態が分化することによる生殖隔離・種分化に注目して研究を行っています。このため、院生・ポスドクにもオサムシを研究材料としている人が比較的多いです。一つの例として、体サイズの研究を上げましょう。同じ地域で共存している近縁な動物種は、しばしば体の大きさが異なります。すなわち、同じくらいの大きさの種は同じ場所には生息していないことが普通です。京都に棲むオサムシでも、同じ場所に棲んでいる種は体の大きさが異なっています。同じ大きさの種が共存できないのは、同じような大きさの餌をめぐって種と種が競争してしまうからだとこれまで考えられてきました。しかし実際に研究を行ってみると、同じくらいの大きさの種がお互いに間違って交尾をしてしまうために、同じくらいの大きさの種が共存できないのだということが分かりました。このような繁殖過程での相互作用が、地域の生物多様性を決める要因の一つとなっているのです。

図2: ヒサカキの雄花の蕾を食べているソトシロオビナミシャクの終齢幼虫(辻かおる博士提供)。
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動物生態学研究室では教員からテーマをもらう学生もいますが、自分自身で研究材料・テーマを決める学生もいます。その例として、ソトシロオビナミシャクの変わった産卵習性を紹介します。ソトシロオビナミシャクは、幼虫がヒサカキの花(蕾)を食べるガです。野外観察から、ヒサカキの花は雌花より雄花の方がよく食べられていることが分かりました。このガのメスはヒサカキの雄花に好んで産卵していたのです。このような行動をとる理由を明らかにするため雄花と雌花の化学組成を調べると、雌花の方がより多くの化学防御物質を含んでいることが分かりました。実際、幼虫に雌花を食べさせるとその幼虫は死んでしまいました。雌花に重点の置かれた化学防御に対応して、ソトシロオビナミシャクのメスは自分の子供が死なないように安全な雄花に産卵していたのです。

このほかにも動物生態学研究室では、2013年1月現在でアメリカの周期ゼミ、キノコ食昆虫群集、アゲハチョウ、ハンミョウ、マメゾウムシなどを用いて研究が行われています。研究のアプローチも、行動実験から分子生物学的な手法を駆使したものまで様々です。系統解析の方法論を理論的に研究している方もいます。より詳しい研究テーマに興味がある方は、動物生態学研究室のウェブサイトをご覧ください。

魚の研究を行っている方々を含めて、動物生態学研究室ではこのように多様な材料・方法を用いている人たちが机を並べています。このような多様なバックグラウンドを持った先輩、後輩たちと共に研究を行うことができることは、動物生態学研究室の大きな利点と言えるでしょう。

参考文献

著者: 京極大助 (京都大学大学院理学研究科)
URI: http://ecol.zool.kyoto-u.ac.jp/

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