2007年05月10日掲載 【ダンゴムシはジグザグが好き!】

軒下に置いてある植木鉢を持ち上げると、鉢の下からころころと転がりでるダンゴムシを見かけることがあります。正式にはオカダンゴムシという生き物です。足の数や胸と腹の区別がないことからもわかるように、昆虫ではなく、エビやカニなどとともに節足動物門甲殻綱に分類されています。

この生き物がたいへん面白い行動をすることが知られています。どなたでも観察できるちょっと不思議な楽しい行動をご紹介しましょう。

図1: T字の交差点が連続する通路を歩くオカダンゴムシ
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図1に示すようなT字の交差点が連続する通路の真ん中にダンゴムシを入れて歩かせると、壁に突き当たって最初右に曲がると、次は左、その次は右、というように左右交互に通路をたどります。このような反応のことを交替性転向反応と呼びます。ダンゴムシがこのような行動をすることはずいぶん古くから知られていて、いろいろな研究が行われました。

図2: 長い直線の通路と5cmごとにジグザグに曲がる通路
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何をたよりに曲がる方向を決めているのか、つまりこの行動の仕組みを知るためにさまざまな研究がなされた結果、一つの考え方として、左右両側についている足の活動量を均等にする、例えば右に曲がる場合、左側の足は右側の足より外側を歩くことになるためにたくさん動かさねばいけないことから、次に曲がるときは、反対側の足をたくさん動かすようにバランスをとる、その結果、曲がり角に来るたびに左右交互に曲がることになる、という考えがあります。一方、多くの昆虫でみられる走触性、例えばゴキブリが部屋の中に出てきたときに、壁伝いに走る姿をよく見かけますが、あの反応をダンゴムシが示す結果、T字交差点が連続する通路では交差点ごとに反対側の壁面を伝って歩くことになるため、左右交互に曲がるという説明もあります。ずいぶん簡単な行動のように見えるのですが、実はまだ、細かな行動の仕組みはわかっていません。

私も、この行動に注目して、この行動の特徴を調べるとともに、ダンゴムシにとってこの行動はどんな意味があるのだろうと、という疑問を抱きました。例えば、図2のようなうんと長い直線の通路を歩かせた場合は、どちらの仮説にしたがっても、ずっと歩き続けそうに思うのですが、あまり長くは歩かないで(平均50cm程度)Uターンをしたり壁面をよじ登って通路から脱出したりします。ところが、5cmごとに左右交互に転回する通路を歩かせると、ほとんどの個体が私の作った装置の限界である75cmの通路をたどり続けます。つまり、どうもダンゴムシもいろいろな状況に対応して行動を決めているように思われ、かなり複雑な背景があることが想像されます。

図3: T字の通路を含む飼育容器。矢印の位置から通路に入った個体の歩行行 動を記録した。
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一方、このような反応をすることが、ダンゴムシにとってどんな意味をもつのか、という疑問からも調べてみました。T字通路を含むダンゴムシの飼育容器を作って(図3)、自発的にこの通路に入った場合と、人間が指でつまんでその名のとおりダンゴ状にしたうえで通路の入り口において、いわば外敵から逃れるような状況にして通路に入った場合とで、歩行行動の特徴を比較しました。その結果、自発的に通路に入った場合に比べて、外敵から逃れるような状況におかれた場合は、歩く速度が速いこと、左右交互の転回をより正確に行う傾向があることがわかりました。ダンゴムシが生活している世界はもちろん実験で使ったような直角に曲がる通路がはりめぐらされているわけではありませんが、ごく単純に考えて、同じ方向に転回しし続けると、元の場所に戻ってしまうと思われるのに対して、左右交互に転回すれば、元いた場所からより遠くに到達することになるはずです。そうだとすると、実験からわかった結果から、ダンゴムシの交替性転向反応は、少なくとも天敵などから逃れる状況では、より速く遠くに到達できることとなり、彼らにとって有効な意味をもっていると考えられます。

著者: 小野知洋 (金城学院大学)

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