2007年05月08日掲載 【トゲアリトゲナシトゲハムシって?】
トゲアリトゲナシトゲハムシという昆虫がよくネタにされていますが、どうしてこのような命名がされたのでしょうか?
どうして発見した時に普通のトゲハムシではないと判断することが出来たのでしょうか?
「トゲアリトゲナシトゲハムシ」という和名の昆虫はおりませんが、「トゲナシトゲハムシ」あるいは「トゲナシトゲトゲ」の和名は使われてきました。
このグループは、鞘翅(甲虫)目ハムシ科のトゲハムシ亜科に属しています。トゲハムシ亜科は、学名もHispinaeで、体にトゲがある特徴に基づいていますが、このトゲハムシの中には、体にトゲのないグループがおり、特に亜熱帯/熱帯圏からは非常に沢山の種が知られております。
トゲハムシ類は、日本には14種が分布していますが、それらのうち体にトゲのない種が外来種で定着しているもの1種を含めて4種が知られています。トゲハムシ亜科の種は、トゲの有無で外見上は非常に異なる印象を受けますが、他の点では重要な特徴をたくさん共有しています。トゲのある種に、「○○トゲトゲ」という和名が長く使われてきました。一方、トゲのない4種のうち3種は日本では南西諸島にだけ分布し、しかも1種は南大平洋の島々に生息するものが沖縄本島に侵入・定着したものです。残りの1種は本州と九州に分布していますが、どちらかというと産地が局所的で、つい最近までかなり珍しい種だと考えられてきました。
というわけで、トゲのないトゲハムシは、一般にはいずれも馴染みが薄い種ばかりです。しかし、トゲハムシの仲間であることはまちがいないということで、初めは「トゲナシトゲトゲ」という和名が付けられました。ただし、形容矛盾という理由から、近年「ホソヒラタハムシ」などという和名も使われたりしています。
私は、トゲのたくさんある種に「○○トゲトゲ」と命名した先人の命名感覚をすばらしいと感じます。また、亜科というグループ名が和名の末尾に付されることは、系統類縁関係を明示することにもなるので、「トゲナシトゲハムシ」の和名は捨てるに忍びない気持が強いです。
ちなみに、同じトゲハムシの仲間であるのに、なぜ体にトゲのあるものとないものとがいるかということですが、トゲのあるものは天敵の捕食に対抗する戦略からそれを発達させたと考えられます。一方、トゲのないものは、寄主植物であるサトウキビやヤシなどの葉と茎あるいは葉と葉の間の隙間に潜入します。天敵の攻撃をかわす方法に、このような大きく二通りの選択肢があり、しかもそれらは両立しないということから、われわれの目からは外見上大きく異なるこうした2方向への形質進化が起こったのだと考えられます。さらに、トゲハムシ亜科にもっとも系統的に近いグループはカメノコハムシ亜科で、これは典型的な種は外見がひじょうに異なっていますが、両者の中間的な外見を持つ種もおり、それは日本でも対馬から知られています。
なお、トゲハムシやカメノコハムシの特徴は、頭頂部が前方に強く突出し、口が頭頂部の下面に位置する点にあり、これらの点は、これら2つの亜科に特徴的で、他の亜科には見られません。