2008年02月14日掲載 【ハダニが増えるとやって来る天敵ケシハネカクシ】

ガーデニングや家庭菜園などを行っていると、赤や緑の小さなハダニが植物上にたくさん発生し、被害に悩まされることがあります。実は、ハダニは農家の方々も防除に苦労する農業害虫ですが、幸いにも、ケシハネカクシという天敵昆虫の働きによって被害が抑えられることがあります。

彼らはハダニがたくさん発生した作物上に突如あらわれ、短期間に大半のハダニを食い尽くし、その後どこかに飛び去ってしまいます。どこから来て、どこに行くのでしょう?また、ハダニの居場所がなぜ分かるのでしょう?

最近の研究成果を紹介し、これらの疑問について考えてみましょう。

スマートなのに大食漢

図1: ナミハダニ(真ん中下は雌成虫、周囲に卵がある)による被害(白く抜けた部分)
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最初にハダニを簡単に紹介します。ハダニは、名前の通り、植物の葉などに集団で寄生するダニで、植物組織に含まれる栄養分などを吸収し生活しています。大変小さく(成虫でも約0.5mm)人目に付きにくい上に、増殖能力も高いので、農家の方々が気付かないうちに爆発的に増えることがあります。こうなると、作物は葉が落ちたり、枯れたりするなどの大きなダメージを受けます。農薬による防除も難しく、日本では、ナミハダニ(図1)やカンザワハダニなどが果樹や野菜、花卉などの重要害虫として知られています。

図2: お腹を反り上げながらハダニを探すケシハネカクシ成虫
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図3: カンザワハダニ雌成虫をつかまえたケシハネカクシ幼虫(左上は食べられた後のハダニの残骸)
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次に、ケシハネカクシ(正式名はヒメハダニカブリケシハネカクシ)を紹介します。彼らは成虫でも約1ミリと大変小さいのですが、カブト虫やテントウ虫と同じ甲虫です。つぶらな瞳に流線型に近い体つき、お腹をときどき反り上げる仕草(図2)が特徴的です。雌成虫はスマートな容姿に似合わない大食漢で、ハダニの卵であれば1日に約100個、生存期間中に約7,500個も食べます。幼虫も大変な食欲の持ち主で、4~5日間の幼虫期間中に200~300匹のハダニを食べます(図3)。ハダニがたくさん発生した作物にケシハネカクシがよく見られるのは、彼らがたくさんの餌を必要とするからです。最初に成虫が作物上に飛来し、彼らとその子供(幼虫)が短期間に大半のハダニを食い尽くすことから、増えすぎたハダニをいっきに減らす「火消し役」として活躍していると考えられています。さらに彼らには、農薬を定期的に散布する作物上でも比較的よく見られるという特徴があります。例えば果樹園で農薬を定期的に散布すると、ハダニの天敵昆虫(ハダニアザミウマ、キアシクロヒメテントウムシなど)の多くはほとんど発生しなくなるのですが、ケシハネカクシの場合にはそうした傾向はあまり見られません。しかしながら、他の天敵昆虫よりもケシハネカクシの方が農薬に強い(詳しく言えば、色々な農薬が体にかかっても死なない)という報告はされておらず、どのような理由でそうなるかは分かっていません。

どこからやって来る?

図4: ナシ園と周辺環境の間のケシハネカクシの移動実態

図4: ナシ園と周辺環境の間のケシハネカクシの移動実態
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ケシハネカクシは大変な大食漢なので、作物上で良く見られるのはハダニが多い時期に限られます。それ以外の時期はどこにいるのかという問題については、ナシ園とその周辺の環境を対象にした私たちの研究成果(図4)から推察できます。

ナシ園では、夏になるとナミハダニやカンザワハダニがよく発生します。これらのハダニが増えると、春には見られなかったケシハネカクシも突如あらわれます。私たちの研究の結果、ケシハネカクシがもともと生息する場所(ハダニが発生する雑草や防風樹など)がナシ園の周辺にあって、そこから飛び出した成虫の一部が餌を求めてナシ園に飛び込んでくる(図4の赤矢印の部分)ことが分かりました。さて、たくさんのケシハネカクシが飛来したナシ園では、夏の間にハダニの密度が急激に低下するので、彼らは新たな餌を求めて今度はナシ園の外へと移動を開始します(図4の青矢印の部分)。このような理由により、秋になるとケシハネカクシはナシ園からほとんどいなくなり、ハダニが発生する雑草や防風樹などに再びあらわれることが分かりました。ケシハネカクシは、時には違う種類のハダニや植物を利用しながらも、餌が豊富な場所を求めて移動することで、世代を繰り返しているものと考えられます。

ハダニを見つける工夫

ところで、1mmたらずの小さなケシハネカクシ成虫にとって、広い野外を飛びながら、さらに小さなハダニがいる植物を見つけ出すことは大変難しいように思えます。しかしながら、彼らには私たちの想像以上の能力があることが分かってきました。例えば、先ほど紹介した私たちの調査では、ナシ園と周辺の環境(ハダニが発生する雑草や防風樹など)とは50m以上も離れていましたが、彼らはこの状況をものともせず、新たな餌を求め両方の生息場所を行き来していました。また、私たちが行った別の行動調査により、ケシハネカクシ成虫は10m以上離れた場所からでも、ハダニが発生する植物へと正確に飛んで行くことが分かりました。これらの調査結果から言えることは、私たちでもなかなか分からないハダニの居場所を、彼らは離れた場所から発見できるということです。小さな虫に秘められた大いなる能力に驚かされるとともに、いったい何を頼りにすればこんな芸当ができるのか、大変気になるところです。

さて、この疑問については、ハダニの被害を受けた植物から出る独特な匂い(以下、匂い物質)が手がかりのひとつとして利用されていると考えられます。「むしコラ」読者の皆さんは既にご存じかと思いますが、イモムシに襲われたトウモロコシが匂い物質を出して、害虫の天敵である寄生蜂を呼び寄せるという話があります(詳しくは「イモムシの唾液?(2007年3月27日掲載)」を見てください)。これと同じように、ナシやマメなどの植物はナミハダニやカンザワハダニなどに寄生された時に匂い物質を出し、これにケシハネカクシが誘引されることが私たちの研究で明らかになってきました。ここで紹介した寄生蜂の話については、匂い物質生産のメカニズムや天敵誘引成分などが精力的に研究されていますが、ケシハネカクシについてはこうした研究はほとんど行われておらず、今後の研究の進展が期待されるところです。

おわりに

ケシハネカクシは大変小さく、人目に付かない昆虫ですが、農業害虫であるナミハダニやカンザワハダニなどの天敵として重要な存在です。読者の皆さんも、運が良ければ(?)、ガーデニングや家庭菜園などでたくさんのハダニが発生したときに見ることができます。おそらく彼らは、庭や畑、果樹園などの近くにひっそりと住んでいて、ハダニがたくさん発生した植物から放出される匂い物質にひかれて、これらの生息場所から飛んで来ると思われます。もしかすると、庭や畑などでフワフワ飛んでいる「小さな虫たち」のなかにはケシハネカクシが含まれているかもしれません。また、今回は残念ながら紹介できませんでしたが、実はケシハネカクシ以外にも重要な天敵(ミヤコカブリダニやケナガカブリダニなど)がいて、ハダニが増えすぎないよう働いていると考えられています。今回のコラムがきっかけとなって、葉っぱという小さな世界の中で繰り広げられるハダニと天敵たちの闘いに興味を抱いて頂ければ幸いです。

著者: 下田武志(中央農業総合研究センター)

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