2013年12月23日掲載 【研究室紹介: 京都大学大学院 人間・環境学研究科 市岡研究室】

市岡研究室では、東南アジアの熱帯雨林に生息する昆虫の生態や生物間相互作用の解明を目指した研究を行っています。アリやチョウの多様性と生態、林冠部に生息する昆虫群集の構造、数年に一度様々な分類群の樹種が同調して開花・結実する「一斉開花」と植食性昆虫の群集動態との関係、キノコの分布とキノコ食昆虫の群集構造の関係などがこれまでに扱ってきた題材です。ここでは、アリと緊密な共生関係をもつ「アリ植物」とさまざまな生物との間の相互作用についての研究の一部を紹介します。

写真1: アリ植物の1種Macaranga hypoleucaの新葉に集まる共生アリCrematogaster decameraと、シジミチョウArhopala zyldaの幼虫。白い粒々がFood body。葉の縁にある赤い花外蜜腺からの分泌物もアリの食物となる。
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アリ植物とは、アリの営巣に適した特殊な形態(空洞化した幹や棘など)をもち、そこにアリを住まわせる植物です。アリ植物に住む「共生アリ」は、植物上から植食者や病原菌を排除し、植物を保護する役割を果たします。アリ植物は熱帯地域に生育する様々な分類群でみられ、東南アジアを中心とした地域に分布するトウダイグサ科オオバギ属(Macaranga)には、30種近くのアリ植物が知られています。オオバギ属のアリ植物の多くは、それぞれの種に特別なごくわずかのアリ種と緊密な共生関係を結んでいます。これまで、どのようにして特定の植物種とアリ種の相利共生系が成立し、進化してきたのかという問題について、多くの研究がなされてきました。当研究室では、このオオバギーアリ共生系について、アリと植物という二者の関係にとどまらず、共生系を取り巻く生物群集、特に植食性昆虫との関係にも着目した研究を進めています。オオバギのアリ植物種は、巣場所に加え、高栄養の食物(Food body)をふんだんにアリに提供しています。共生アリは、巣場所をかまえる植物の葉や茎に接近する他の生物に対して激しい攻撃を加えます。共生アリの攻撃が待ち受けているために、オオバギを餌として利用する植食性昆虫は多くありません。しかし、共生アリの攻撃をかわすことができる植食性昆虫がいくつか存在することや、彼らの詳しい生態が、最近の我々の研究により明らかになってきました。

例えば、オオバギを利用する数種のシジミチョウの幼虫は、アリが好む甘露を分泌したり、体表面の化学成分をアリの体表成分に似せたりしているため、共生アリによって攻撃されることなく、オオバギの葉を食べることができます。このシジミチョウ数種は、食草とするオオバギの種がそれぞれに決まっており、関係をもつアリの種も、食草とするオオバギ種の共生アリだけに限定されています。この幼虫を実験的に、食草種ではない別のオオバギ種に乗せると、導入先の共生アリから攻撃を受けるため、幼虫の分泌物は特定のアリ種に対してだけ有効に機能していると考えられます。また、幼虫を、共生アリを取り除いたオオバギを与えて飼育すると、自然条件下では利用しないオオバギ種を餌としても成虫になることができました。すなわち、攻撃的な共生アリの存在が、シジミチョウの食草を限定する要因のひとつになっている可能性が示されました。

この研究の過程で、オオバギを利用するシジミチョウの一種Arhopala zyldaの幼虫は、甘露を分泌しないにもかかわらず、共生アリから攻撃されないことが明らかになりました。また、この種の幼虫は、他の種の幼虫が葉を餌にするのとは異なり、主にFood bodyを摂食して成長することも明らかになりました。シジミチョウには、幼虫時代にアリと共存する種が多く知られていますが、その中でも、このような性質は珍しいと言えるでしょう。さらに、これらのシジミチョウ幼虫を攻撃するヒメバチやヤドリバエなどの捕食寄生者と共生アリの関係についても、研究を進めています。

写真2: ランビル・ヒルズ国立公園にある林冠観測用クレーン。最大で地上70mの高さになる熱帯雨林の林冠に生息する昆虫の群集構造を調べるため、このクレーンからつるしたゴンドラに乗って採集を行う。
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当研究室の研究活動は、主にマレーシアのボルネオ島にあるランビル・ヒルズ国立公園を調査地として行なっています。約70km2の敷地には低地混交フタバガキ林が広がり、きわめて多様な昆虫や植物が生息しています。この公園には、サラワク森林局、日本のいくつかの大学・研究機関が参加する研究コンソーシアム、アメリカのハーバード大学やスミソニアン熱帯研究所の支援を受けたCenter for Tropical Forest Scienceなどによって、熱帯雨林の生態系を研究するための、林冠観測用クレーンや観測塔、簡易研究室などの調査施設が設けられており、世界中からさまざまな分野の多くの研究者が訪れます。これらの研究施設を利用して、数多くの研究成果が生みだされてきました。私たちは、研究テーマによっては1年の半分以上をこの調査地で過ごしながら、野外観察や飼育実験などに勤しんでいます。

参考文献

著者: 清水加耶 (京都大学大学院人間環境学研究科)

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