2008年05月21日掲載 【樹液に来るチョウの働きについて】

訪花性のチョウは、花粉媒介による植物へのメリットがあると説明できます。では、樹液に集まるオオムラサキやゴマダラチョウ等は、樹にとって何かメリットがあるのでしょうか?

夏の雑木林では、クヌギやコナラなどの広葉樹の樹液を吸いにカブトムシやクワガタ、スズメバチやチョウなど様々な昆虫が集まってきます。でも樹液が出ている樹はそう多くありません。どうしてでしょうか?

写真: 樹液を吸うクロヒカゲ成虫
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写真: 樹液に集まるカブトムシ成虫
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樹液が出ている樹の多くは、内部にボクトウガやカミキリムシの幼虫が潜んでいます。これらの幼虫は樹皮のすぐ下にある維管束形成層という部分を食べています。形成層は樹木の血管にあたる師管と導管がそれぞれ集まった部分(師部と木部)に囲まれていて、幼虫の食害によって管が切断されると樹木の血液にあたる師管液や導管液が外ににじみ出てきます。このうち師管液には糖類やアミノ酸が多く含まれており、外ににじみ出るとたちまち酵母や微生物が繁殖し、液を発酵させて独特の匂いを作り出します。匂いの主成分はエタノールや酢酸です。その匂いをかぎつけて様々な昆虫が樹液(に含まれる栄養素)を吸いにやってくるのです。つまり昆虫の餌となる樹液とは「潜孔虫に食害され、傷口からにじみ出た樹木の体液が発酵したもの」と言えるでしょう。

樹液を吸いにやってくる昆虫というのは、樹木にとって傷口に群がる虫たちということになります。これらの昆虫から樹木が受けとる利益はおそらくないと考えられます。

回答者: 大村 尚 (広島大・院・生物圏)・河野勝行 (写真提供/野菜茶業研究所)

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