2009年01月30日掲載 【アカリナリウムは用心棒を運ぶポケットだった!】

アトボシキタドロバチ(以下アトボシ)をはじめ、カリバチやハナバチの中にはアカリナリウムと呼ばれるダニポケット(体表面の窪み)を持つものがいます。なぜハチがこんなポケットを持つようになったかは、長らく生物界の謎でした。

アトボシのアカリナリウムを利用するダニが、ハチの巣の中でどんな生活をしているのか調べてみたところ、ダニはハチの幼虫の体液を吸う寄生者でした。どうしてアトボシは子供の血を吸う寄生生物を大事に(?)ポケットに入れて運ぶのか??

謎が深まるばかりのある日、私たちはハチの育室(図2)の中でダニが死んでいるのを発見しました。その育室内ではクロヒラタコバチという体長1mm程度の寄生バチが、アトボシ幼虫に卵を産み付けていたのです。

図1: アトボシキタドロバチ♀の第二腹節背面のドーム状のアカリナリウム。BはAの外骨格を剥がして内部のダニを見たところ。
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図2: アトボシキタドロバチの巣の中。育室は泥壁で区切られている。
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図3: アトボシ幼虫(背景の黄色)体表面で寄生蜂を攻撃するダニ成虫。
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それぞれの行動を観察しやすいように、ガラス管にアトボシ幼虫、クロヒラタコバチ成虫、ダニ成虫を入れてみたところ、なんと、ダニは猛烈にクロヒラタコバチを攻撃しはじめました(図3、ビデオもご覧ください)。ダニの数が少ないとクロヒラタコバチに反撃されることもあります。しかし10頭以上のダニがいれば、確実にダニが勝利を収めることもわかりました。

アカリナリウムは、子供が恐ろしい天敵に襲われても守ってくれる用心棒を運ぶためのポケットでした。用心棒にちょっとくらい血を吸われても、我慢、ガマン!?

参考文献

著者: 岡部貴美子・牧野俊一 (森林総研)

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