2009年03月28日掲載 【ナミテントウの越冬場所】

小学生向けの本で、小屋の東西南北に板を積み、温度を測りながらナミテントウの越冬を観察したところ、温度の高い南側ではなく西側で多くのナミテントウが越冬したということが書かれています。

ナミテントウは、温度変化の小さいところで越冬するのでしょうか。

また、温度でいうと何度から何度の範囲で越冬するのでしょうか。よろしくお願いします。

テントウムシは木の割れ目、家屋の隙間、石の下や草むらなどで集団越冬します。

「ナミテントウの越冬」については、谷岸一紀さんが雑誌「インセクタリゥム」の1976年12月号に記事をかかれています。それによると「テントウムシは日長が長くなり平均気温が20℃以下になると越冬のための身体の変化が起き始め、東京近県では10月から11月上旬、平均気温が15℃、日最低気温が10℃付近になると越冬場所への移動を開始し、4月に入り平均気温が5~10℃に上昇する越冬場所から離れる」とあります。京都大学の大澤直哉さんの観察では「京都府では11月上旬、平均気温が10℃前後になると越冬を始める」そうです。日本昆虫学会和文誌第11巻4号には善養寺聡彦さんの論文があり、「千葉市では、気温14.0℃以下で一定期間低温にさらされた個体が、正午の気温が16.2℃以上、風力4以下、晴天あるいは薄曇りの日に移動を開始すると考えられる」とのことです。この他の場所についても、越冬を開始する時期やそのときの温度について報告があるようです。

越冬場所への移動については、1986年の日本昆虫学会誌に小畑昌子さんの論文があり、「ナミテントウは白あるいは明るい色を目指して山の南斜面などへの移動を繰り返し、最終的に岩の割れ目などで集団越冬する」そうです。お問い合わせの「温度の高い南側でなく西側で多くの越冬個体が観察された」という実験の詳細がわからないので確かなことはいえませんが、越冬の初めは南側に集まり、やがて温度変化が比較的小さい西側に移動したことが考えられます。温度変化の大きな場所では、テントウムシの基礎代謝量(エネルギー消費量)は高くなって長期間の越冬に不利になることが予想されますし、厳冬期に急激な温度変化をうけて休眠(越冬)から醒める個体がでてくるかもしれません。これらの理由から、テントウムシは温度変化の少ない場所を好んで越冬していると考えられます。この他、テントウムシの越冬については、高橋敬一さんによる「インセクタリゥム」1995年3月号の「アルファルファ草地のテントウムシ-ナナホシテントウとナミテントウ」という記事や、桜谷保之さんによる同誌1990年1月号の「ナナホシテントウの越冬と越夏」、1997年10月号の「冬に産卵するナナホシテントウとその産卵戦略」という記事があります。

越冬中の昆虫は、常に低温に晒されています。昆虫にとって低温は大敵で、体内の組織や細胞を構成する物質が変化して物質循環・代謝ができなくなったり、体液が凍って細胞が破壊されたりすることで死亡する原因となります。昆虫が低温から身を守るには、(1) 体(血液)が凍らないようにする、(2) 体が凍っても細胞が破壊されないようにする、二つの方法があります。昆虫の血液はだいたい-2℃くらいで凍りはじめます。体が凍結しにくい昆虫は、血液中に不凍液の成分(グリセリンやトレハロース)をため込む、氷の核となる物質を減らす、氷の結晶成長を抑える物質を増やすなどの仕組みをもっています。一方、体が凍っても生きていられる昆虫は、細胞内に氷ができないよう-5~-10℃くらいの温度で細胞外凍結をはじめる仕組みをもっています。テントウムシは体が凍りつかない仕組みをもっており、ナナホシテントウは-20℃くらいまで凍結しません。テントウムシは寒風が直接当たらない場所で越冬しますので、冬の寒さには十分な耐寒性を備えています。

回答者: 応動昆電子広報委員会

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