2013年03月18日掲載 【研究室紹介: 京都大学大学院 人間・環境学研究科・加藤真研究室】

京都大学大学院 人間・環境学研究科 加藤真研究室の末次です。今回は私たちの研究室で取り組んでいる研究について、ご紹介します。当研究室では、「共生」「生物多様性」「ナチュラルヒストリー」などをキーワードに、生態学や進化生物学の視点から研究を行っています。研究対象とする生物に制限はなく、陸域、水域を問わず様々な分類群 (陸上植物、昆虫、魚類、菌類、貝類、海綿、ミミズなど) を研究対象としています。ここでは昆虫関連の研究を幾つか例にとってご紹介しましょう。

図1: キールンカンコノキの雌花に産卵するハナホソガ(後藤龍太郎博士提供)
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1つめの例は、「送粉共生」に関する研究です。送粉共生とは、植物が動物に報酬を与える代わりに花粉の運搬を託すことで両者が助け合っている関係を指します。当研究室の加藤真教授は、カンコノキという植物とハナホソガという蛾の間にある興味深い送粉共生系を発見し1、多くの院生とともに研究を進めてきました。カンコノキの仲間は亜熱帯から熱帯にかけて広く分布する木本植物ですが、ハナホソガの雌成虫はその唯一の送粉者です。この蛾は、授粉と同時に必ず花への産卵も行うのですが、果実の中で孵化したハナホソガの幼虫はカンコノキの種子だけを食べて成熟します。つまり、両者は互いに強く依存しあった「もちつもたれつ」の関係にあるといえます。一方で、種子食の昆虫に送粉を託す植物には、孵化した幼虫に種子を食べ尽くされた場合、子孫を残せなくなるというジレンマが存在します。カンコノキとハナホソガの間では、どのようにこのジレンマが解決されているのでしょうか? 当研究室での最近の研究によって、カンコノキ属の1種ウラジロカンコノキは、多重産卵を受けた花を選択的に中絶することで、果実内の幼虫数の増加によって起こる種子の食い尽くしを防いでいることが明らかになりました2。ウラジロカンコノキは、種子が残る見込みの少ない花をあらかじめ落とすことで、資源の無駄な投資を省いていると考えられます。また、花の中絶にともなって卵も死亡してしまうので、ハナホソガにとっても重複産卵を行うのは得策ではありません。そのため、多重産卵を受けた花の選択的中絶は、ハナホソガに対する「制裁機構」として働くことで、重複産卵を抑制する選択圧となっているのではないかと予想されています。

図2: 寄主植物であるジャゴケの近くでじっとしているニッポンヒロコバネの成虫(今田弓女提供)
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そして2つめの例は、最近、大きなテーマとなっている「植食性昆虫の起源や多様化」に関する研究です。ほとんどの植食性昆虫は決まった種の植物だけを食べていますが、昆虫はしばしば進化の過程で食草を大幅に変えます。この寄主転換と呼ばれる現象が、植食性昆虫の多様化の原動力となったという仮説がよく知られています。したがって、一般的に、植食性昆虫の著しい適応放散は、白亜紀における被子植物の多様化に伴って生じたとされています。ところが、チョウやガの仲間である鱗翅目の系統樹の基部に位置する種群は、被子植物の適応放散より前に起源していることがわかっています。このような種群は、どのようにして多様化したのでしょうか。この問いに答えるために、今田ら3は、最も原始的なガ類であるコバネガ科について、幅広い食性調査と系統解析を行いました。その結果、日本列島には25種近くのコバネガがおり、その大半はジャゴケを食草としていることと、ジャゴケを食べる種はすべて異所的に分布しているということが明らかになりました。さらに、分岐年代推定から、これらの蛾の多様化が始まったのは比較的最近のことで、およそ日本列島の成立した年代に相当するということがわかりました。これらのことと、コバネガが比較的弱い飛翔能力しか持たないことを併せて考えると、日本列島におけるコバネガの多様化に寄与したのは、寄主植物の転換ではなく、移動力が小さいことに起因する地理的な生殖隔離であるということが示唆されました。

このほかにも加藤真研究室では、ネジレバネ、ハムグリユスリカ、シギアブなど様々な昆虫について研究を行っています。研究のアプローチも、記載分類、行動観察から分子生物学的な手法を駆使したものまで様々です。自身の取り組みたいテーマや材料があれば、それを研究することも可能です。興味のある方は、お気軽にご連絡下さい。

引用文献

参考図書

著者: 末次健司 (京都大学大学院人間環境学研究科)
URI: http://naturalists.jinkan.kyoto-u.ac.jp

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