2007年03月27日掲載 【フェロモンとホルモンの違い】

フェロモンはホルモンとどこが違うのですか?

ホルモン(hormone)は、同じ個体のある決まった器官で合成され、内分泌されて、体液を通して体内の別の器官に対して影響を及ぼす物質のことです。ごく微量で効果を示すという特徴があります。

いっぽう、フェロモン(pheromone)は同種の他個体に作用する物質なので、同一個体、つまり自分自身に作用するホルモンとは、作用相手が異なります。最初は、この意味にもっと忠実に、「エクトホルモン(ectohormone)」(「エクト」はラテン語で「外の」という接頭辞。エクソダスとか、エクスポート、エクソシストなどを思い出してください)と呼ばれていたのですが、ギリシャ語の「運ぶ(pherein)」と「刺激する(hormao)」の合成語であるフェロモンという言葉が、より一般的に使われるようになりました。余談ですが、「環境ホルモン」は多くの生物にホルモン的に機能しますが、その生物自身が分泌したわけではないので、正しい意味での「ホルモン」ではありません。環境ホルモンは、環境「ホルモン」ではなく、あくまでも「環境ホルモン」なのです。

人間には20種類近くのホルモンがあります。生殖腺のホルモン(ろ胞ホルモン、黄体ホルモン、雄性ホルモン)と副腎皮質ホルモン(糖質コルチコイドと鉱質コルチコイド)は、ステロイド系のホルモンですが、成長ホルモンやチロキシン、アドレナリン、インスリンといった、あとの残りはすべてタンパク質系のホルモンです。

昆虫にもホルモンがあります。有名なのは脱皮・変態をつかさどるアラタ体ホルモンと前胸腺ホルモンで、これはステロイド系ホルモンです。このほかにも代謝調節や筋収縮にかかわる各種のホルモンが構造決定されていて、こちらはタンパク質系のホルモンです。

人間にフェロモンがあるかどうかはよく分かっていませんが、昆虫たちはさまざまな交信手段にフェロモンを使っています。たとえば、性フェロモン、警報フェロモン、集合フェロモン、道しるべフェロモン、などなど。機能別にフェロモンを分類していくと、分類が難しいものも出てきます。カメムシの出す匂いには低濃度で雄も雌も幼虫を集め、高濃度ではこれらを遠ざけるものがありますが、これでは、この物質は時と場合によって性フェロモンにも、警報フェロモンにも、集合フェロモンにもなることになります。同じ物質でも、情報の発信者と受け手とで使われかたが異なる場合があるということですね(なんとなく、コミュニケーションの難しさを感じてしまいます)。

ミツバチの女王は、コロニー中の他の個体が女王にならないように女王物質を分泌しますが、これは階級を形成するための物質なので、階級フェロモンとも呼ばれています。

蜂を怒らせると、怒らせた蜂以外の蜂も一斉に攻撃してきますが、これは働き蜂が毒液のなかに警報フェロモンをもち、その匂いをかいだ他の働き蜂も一斉に攻撃的になるからです。蜂に気づいたら、仲間を呼ばせないように、怒らせないようにすることが肝心です。

回答者: 榊原充隆 (東北農研)

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